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2021.08.28

ヨカヨカ北九州記念制覇、生産者本田土寿氏インタビュー(前編)

8月22日、小倉競馬場で行われたGⅢ北九州記念(芝1200m)。雨降りしきる馬場状態の中、8枠17番からすんなりと3番手を確保し、直線で力強く前を捉えきったヨカヨカが、熊本県産馬JRA重賞初制覇という偉業を達成しました。のちにGⅡ京王杯2歳Sを勝つモントライゼとの激闘を制した新馬戦から、57kgを背負いながら圧勝したひまわり賞、GⅠ阪神JF5着など、常に九州産馬の枠を超える活躍を続けていた熊本の星。秋への飛躍が期待される同馬を生産した本田土寿さんにお話を伺いました(取材は8月26日。撮影時以外はマスク着用で行いました)。

ヨカヨカが快勝した北九州記念、今週のひまわり賞、3勝クラスで好走したイロゴトシについて

今回は用事があったのでテレビで観戦しました。前走からプラス4kgだったけどパワーアップしているように見えたし、谷先生たちのおかげで状態はとても良かった。レースでは幸騎手が折り合いをつけてくれて、首も使ったいい走りで、完璧に乗ってくれていい脚を使ってくれた。勝ってほしいという気持ちは一番強かったけど、重賞で結果を残すということがいかに難しいかということは百も承知だったから、まさか本当に勝ってくれるとは…。直線抜け出してぐっと動いてくれた時にはうちのスタッフたちとワーワー言ったね。

生産者枠みたいなもんで競馬場に入れてくれればいいんだけど、俺も普段はJRAカード会員として抽選してるからね(笑)。入念にケアしていただいて、また仕上げてもらって、とにかく無事に次に向かってほしい。

(先日の九州産馬限定未勝利を勝った)ミミグッドは前走後に疲れが出たことでお休みだけど、今年のひまわり賞は5頭出し、自分の馬も出るからね(注:佐賀所属のダイチノツバサ。ひまわり賞チャレンジ勝利)。楽しみにしています。

使えてなんぼみたいなところがあるから、連闘が利くようにしていかんとね。何とか丈夫に使えるようにしている。(ひまわり賞など、九州産馬限定の)レースがあるだけでもJRAには感謝なんだけど、やっぱりローテーションがきついから、できればもう少し間隔を開けてくれると俺たちもいいんだけどね。(勝てば同レース4連覇となるが)簡単ではないのは分かっているが、応援しに行かんとね。

(ひまわり賞を勝ち、前走博多S3着の)イロゴトシも走るよねえ。距離長いところは確実に走ってくる。2000でもいいし、2200とか距離が延びてもまた持ち味が出そうだよね(注:3歳時にGⅡ京都新聞杯5着)。ヴァンセンヌは短いところも走ってくれるし、融通が利くのがいいよね。

九州産馬のメリット、デメリットは

まずメリットは温暖な気候。冬でもぐっと冷え込むようなことはまずないし、繁殖牝馬が元気なんだよね。楽な状態で過ごせるから、馬が長持ちしているという感覚がある。若い繁殖はいいんだけど、年齢を重なてくると寒いのはきついよね。(ヨカヨカ、ローランダーの母)ハニーダンサーも17歳になるけど若々しいでしょ。あと5頭ぐらいは元気な子を産んでほしいね(笑)。

ハニーダンサーと本田さん。17歳になる今も元気いっぱいで、扇風機の首振りに合わせて器用に体を動かしていた

ただ気候にはデメリットの側面もある。夏は暑いから、馬がへばらないように放牧の時間を調整しないといけない部分がどうしても出てくる。午後少し経って暑さが和らいだ時間からじゃないとしんどいよね。また北海道に比べると狭さという面で課題がある。青草なんかも買ってきて与えたりとか、いろいろ工夫が必要だね。

種牡馬が限定されちゃうところもひとつ。こっちの種馬だけではセリなんかでも馬主さんに選択の余地がなかなか生まれてこないから、北海道に行ってつけることももちろんある。年間3~4頭ぐらいかな。セリ市場でデキなんかを確認して、種馬を選定していく。繁殖牝馬なんかも現役を引退した馬だったり、つながりのある牧場さんから、お腹に好きな種馬がいる時に譲ってもらったり、繁殖牝馬セールで買ってきたりしている。(注:ひまわり賞でイロゴトシの2着、福島での1勝クラスを勝つなど活躍したローランダーは、現在鹿児島の山下牧場で休養中だそうです)

でも置かれた環境でできることをやるのが大事。どうやってそのデメリットを穴埋めするか、自分でできることをずっと続けてきたからね。いまある施設とスペース、予算でベストを尽くさなきゃ。先人たちが長いこと九州産という火を灯し続けてきたんだから、俺たちも消すわけにいかんし、みんなで力を合わせて頑張らんとね。

南阿蘇の高森町に分場を建設中。狙いは

自分の手で草の中で仔馬を育成したいという思いがあって、ずっと前から分場がほしかった。今回55haという広大な土地が見つかり、手に入れられたのはラッキーだった。なかなかこのクラスの広さはないからね。標高が900mぐらいあることでなにしろ涼しい。湿度が違うから体感でも全然違うんだよね。かなりの高低差があるから運動量も当然増えるだろうし、冬場でも落ちない。前に言った暑さと狭さというデメリットをともに解消できるという意味でも期待が大きい。来年から本格的に活用を始めて、5年くらいかけながら、自分の身の丈に合わせて、少しずつ広くしていくつもり。いずれは管理棟みたいな小さい家を作って、こっちに住み込むことになるかもしれないね。

ここが完成したら本当に変わると思うよ。九州は狭いということが根っこにあったから。狭い中で一生懸命やってきたし、ヨカヨカもイロゴトシも、ローランダーもよく出てきてくれたと思う。(ひまわり賞を勝った)カシノティーダなんかはセリ以外はずっとこっちにいたからね。ただやっぱり先を考えていかないといけない。

ここで調教して、どのくらいのタイムで走った馬が、どのくらいの結果を残すのかというのを自分で見てみたかった。それがついに現実味を帯びてきた。中期育成なんかにはベストの環境だと思うし、ゆくゆくは馬を預かってそういう風に使えるといいなと思っている。

取材後記

大学でフランス文学を専攻している筆者に、30年前のフランス滞在やニューマーケット視察のお話から「心に柔軟性がある時期に何かを見ておくことは大事。行った方がいいよ」とアドバイスをもらったり「高森の分場に馬小屋作っとくから泊まりに来てくれ(笑)」とありがたいお誘いをいただいたりと、非常によくしていただきました。3年かけて作り上げたウォーキングマシン、熊本地震に遭いながら補強してきた馬房など、60歳になってもたゆまぬ向上心で強い馬づくりに取り組む本田さんの姿勢と行動力は言葉の端々から伝わってきます。事務所で北九州記念を取り上げた番組を見ながら本田さんがつぶやいた「GⅠも勝ってくれねえかなあ」という言葉が現実になる日を、ファンの一人として強く願っています。

後編ではセプテンバーセール上場予定のユニティ2020(父アメリカンペイトリオット)などについてのインタビューを掲載いたしますので、そちらも併せてご覧ください。

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